冬の胃腸炎にご注意を! ~ノロウイルス感染症が流行中です~
医療法人社団秀皓会 理事長 船本全信
めっきり寒くなってきましたが、皆様体調の変化ありませんか?
さて、今回は嘔吐下痢を来すノロウイルス感染症についてお話ししたいと思います。
ノロウイルス(Norovirus)は、電子顕微鏡で観察される形態学的分類で
SRSV(小型球形ウイルス)、あるいはノーウォーク様ウイルス“Nowalk-like viruses”という属名で呼ば
れてきたウイルスです。2002年の夏、国際ウイルス命名委員会によって
ノロウイルスという正式名称が決定され、世界で統一されて用いられるようになりました。
ノロウイルスはヒトに対して嘔吐・下痢などの
急性胃腸炎症状を起こしますが、その多くは数日の経過で自然に回復します。
季節的には「秋口から春先」に発症者が多くなる冬型の胃腸炎、食中毒の原因ウイルス
として知られています。ヒトへの感染経路はは、主に経口感染(食品・糞口)です。感染者の糞便・吐物および
これらに直接または間接的に汚染された物品類、そして食中毒としての食品類が感染源の代表的なものと
してあげられます。過去のノロウイルス食中毒の調査結果を見ると、
食品から直接ウイルスを検出することは難しく、
食中毒事例のうちでも約7割では原因食品が特定できていません。
「ウイルスに感染した食品取扱者」を介して食品が汚染されたことが
原因となっているケースが多いことが、原因食品を特定できない要因となっています。
そのほかの原因としては、ノロウイルスに汚染された二枚貝があります。
二枚貝は大量の海水を取り込み、プランクトンなどのエサを体内に残し、
出水管から排水していますが、海水中のウイルスも同様のメカニズムで
取り込まれ体内で濃縮されるためと考えられています。
なお、ノロウイルスに汚染された二枚貝による食中毒は生や
加熱不足のもので発生しており、十分に加熱すれば、食べても問題ありません。
食品衛生上の対策としては、食品の取り扱いに際して入念な手洗いなど衛生管理を徹底すること、
食品取扱者には啓発、教育を十分に行う事が大切です。
ヒトからヒトへの感染として、
ノロウイルスが飛沫感染、あるいは比較的狭い空間などでの空気感染によって感染拡大したとの報告もあります。
この場合の空気感染とは、結核、麻疹、肺ペストのような広範な
「空気感染(飛沫核感染)」ではないところから、患者の吐物・便等に存在するウイルスが埃とともに周辺に散
らばるような「塵埃感染」という語の方が正確ではないかと考えられています。
ノロウイルス感染症の潜伏期は、1~2日で、嘔気・嘔吐・下痢以外にも、腹痛・頭痛・発熱・悪寒・筋
痛・咽頭痛・倦怠感などを伴うこともあります。殆どは特別な治療を必要とせずに軽快しますが、乳幼児や
高齢者その他体力の弱っている方は、脱水や吐物による窒息には注意をする必要があります。
ノロウイルスは、症状が消失した後も3~7日間ほど
患者の便中に排出されるため、2次感染に注意が必要です。
そのため、もし罹ってしまったら、1週間から10日間は、タオルは別々にして、
トイレは流しながら行い、入浴は一番最後にしてください。
ノロウイルス感染症患者の腸管組織を病理組織学的に検討したところ、
ノロウイルスはヒトの空腸の上皮細胞に感染して繊毛の萎縮と扁平化、
さらに剥離と脱落を引き起こして下痢を生じると考えられています。
しかしながら、このような現象がどのようなメカニズムによるものなのか、
その詳細はまだ不明です。ノロウイルス感染症の検査法として、「ノロウイルス抗原検査」があります。
これは、糞便中のノロウイルスを検査キットで検出するもので、
「3歳未満、65歳以上」の方等を対象に健康保険が適用されています。
身近な感染防止策として、手洗いの励行は重要です。石鹸を用いた手洗いは、流水に
よる物理的なウイルス排除に加え、皮脂分解によるウイルス剥脱を容易にする効果があります。
ちなみに、消毒用エタノールによる手指消毒は、石鹸と流水を用いた手洗いの代用にはなりません。
ノロウイルスは胃液の酸度(pH3)や飲料水に含まれる程度の低レベルの塩素には抵抗性を示し、
また温度に対しては、60℃程度の熱には抵抗性を示します。